以前にも書いたことがありますが、私の運営する事業「臼杵 整体&リフレクソロジー ケレシュ」と「ケレシュ雑貨部」は1935年築の古民家で営業を行っています↓
臼杵にUターン移住してくる前は、埼玉県川越市という首都圏でナンバー1の観光地のお隣に8年ほど住んでおり、江戸時代からの風情を残す建物や歴史、文化に魅了されたものです。毎週川越を訪れてはライターとして取材し、寄稿している「LINEトラベルjp」に川越記事をたくさん掲載してもらいました。
江戸風情の残る川越で「古い物を残せばそれ自体が資源になる」ということを体感していたので、四十路になった今、地元・臼杵市の良さを認識し、古民家での事業運営を楽しめているのかもしれません。
「こんな田舎では何もできない」
と思っていた10代の頃には感じえなかった風情が、この臼杵市にはたくさん詰まっているのです。
残すべき古い物で新しい町づくりを行うという「町残し」を臼杵市で提唱していたのが、前の臼杵市長・後藤國利氏で、これに共感し実践されたのが、臼杵を舞台に映画「なごり雪」や「22才の別れ」を撮影した映画監督の大林宣彦氏と、前回のブログでもご紹介した久家本店の蔵元さんです。そしてまた何のご縁なのか、大林監督が古民家再生し運営していた喫茶店「クランク・イン!」の建物を、現在私がお店にしています。
今週と来週は臼杵市街地の掛町にある、この古民家にまつわるお話です。
元々は人が住んでいた長屋
私は敢えて八町や仁王座界隈などの臼杵市街地を「旧市街」、スーパーなどがたくさんある野田地区を「新市街」と呼んでいます。
留学や仕事で私が往来を繰り返している英国を含む欧州では、Old Town(旧市街)とTown Centre(新市街)はかなり明確に区別されていて、旧市街には多くの場合景観条例などがあります。歴史ある建物やエリア自体を保護しているので、この二つのエリアでは明らかに雰囲気が違います。古い物を残す旧市街と利便性を追求した新市街。臼杵もこれに当てはまる景観や機能を持っているし、何より5月から始めた民泊で宿泊した外国人客に臼杵の町を説明するとき、この表現が一番伝わりやすかったのです。
私のお店「ケレシュ」の建物は、この表現を使うなら旧市街に位置しています。久家本店さんが所有する長屋の先の一角(下の写真の長屋の先)なのですが、登記上の記録は1935年が一番古い物なので、少なくとも築85年の歴史はあるはず。
80代の整体のお客さんや蔵元さんなどに話を聞くと、元々は人が生活をする長屋→米問屋の精米所→大林監督の「クランク・イン!」→私の「ケレシュ」という流れのようです。
駐車場計画の為、解体寸前
移住前にネットでこの建物について調べたとき、大林監督の手記に出会いました→OBs Club通信23号より
この手記を読むと、久家本店の蔵元さんがこの長屋を解体して駐車場にしようかと大林監督に相談をした、という記述があります。速攻で止めに入った監督と、町残しのために解体をやめることを決断してくださった蔵元さんに私は凄く感謝しています。蔵元さんにしてみたら、この土地を駐車場にしたほうがいかに「楽」だったことか・・。古い建物を維持することは本当に時間も労力もお金もかかるのです。
しかし、江戸時代の「久家の大蔵」から続くこの長屋を残したことで、臼杵市民や観光客は昭和初期の風情薫る日本家屋を今なお見ることができます↓
この掛町やお隣の浜町、横町にはこのような日本家屋がまだ残っていますが、その恩恵はそれを残す人たちの決断や努力あってこそのもの。こういった臼杵の風景、まだまだ続いていってほしいと願うばかりです。
ちなみに、同じく掛町にある高橋家住宅(現在はスペイン料理の「ラ・マンチャ」さん)、浜町の小手川酒造さん、本町のカニ醤油さんがこの界隈で文化財登録されている建物です。臼杵市は建物探訪にもピッタリの町なのです。
今「私」にできること
「旧市街に位置し、このような経緯のある建物に関わることになった私が今できることは何だろう?」
というのが、Uターン移住してからケレシュの建物に対する私のテーマです。
今のところのポイントは3点;
① 営業をきちんと続けて今の状態を維持する
② 町の賑わいに貢献する
③ 古民家の良さを伝えて空き物件を移住者に埋めてもらう貢献をする
やはりきちんとした経営基盤が成り立ってないと、この古民家を借り続けることはできません。空き家になれば動物や虫がどんどん入ってきて建物はもの凄いスピードで朽ちていきます。私の祖父母の家も、祖父母が亡くなり住人がいなくなって数年で天井が落ちました。こういうことはできるだけ防ぎたいのです。
現在のケレシュ雑貨部の店舗部分↓
大林監督が「クランク・イン!」を作る前、この建物は1枚目の写真にある電柱に寄り掛かる勢いで傾いていたそうです。それをできる限り元に戻し、内装にも随分手を加えたことが見て取れます。
この床のタイルはとても素敵だったので、私の事業を始めるにあたっても手を加える必要はありませんでした。真ん中に見える自然木の柱は、おそらく傾きを戻した際の支えとして監督が付けたものではないでしょうか?
雑貨エリアと整体エリアを仕切る柱もただの柱ではありません。ブロックのような重厚な素材を柱の周りに付けており、大正ロマンな雰囲気を醸し出しています↓
壁の漆喰も普通のものではなく特殊な素材です。全然崩れませんし、むしろ釘を打つにも一苦労。これも恐らく建物の強度や保存、見た目を総合的に考えての材料選びだったのだと思います。
極めつけは台所↓
下の黒いかまど部分は建築当初のもので、監督の時に上のレンガ部分を加え、喫茶店として調理しやすい鋳物コンロを入れたのではないでしょうか?
大林監督の「クランク・イン」の内装は、美術監督が手掛けたそうなので、雰囲気がとにかく良いのです。私が海外から買い付けたビンテージ雑貨や生地がとても映えるのですぐに賃貸契約をしたほど。
この建物を大切に扱った人々の想いを考えるのは、私がビンテージ雑貨を想う気持ちと共通点が多く、日々愛着を持ってここで営業を行うことができます。
だからこそきちんと維持していきたい!そのためには営業をきちんと継続させる、というポイント①にもつながるのです。
営業を成功させれば、人口の減少と比例する町の賑わいへの貢献もできるでしょうし、「こんな古い家でも商売ができるんだ」ということをこのブログなどで紹介すれば、これから地方移住を検討し臼杵市がその候補になっている人にも参考になるのでは、と思うのです。マチナカの空き店舗が移住者が起業したお店で埋まってくれれば、自然と臼杵市もエネルギー溢れる子供の多い町に戻れるのではないでしょうか?
私の事業がそのほんの一石になることができれば、臼杵市にUターン移住した意味があるというものです。
古民家は素敵だけどドン引きすることもある
と、古民家の素敵な雰囲気や情熱ばかり書いてきましたが、一応ドン引きするほど馴染めないことがあることも書いておきましょう。それは「虫」です。
この古民家にはとにかく隙間が多いので、虫が入ってきます。といっても6月現在、ムカデなどは全く見ていません。整体のお客さんに話を聞くと、山に近い場所ではムカデが出たりするらしいのです。これは毒虫なので恐ろしい。幸いなことにここで毒虫を見ることはありません。この建物で一番よくみるのは多種多様な蜘蛛です。ピョンピョン跳ねる小さい蜘蛛は日常茶飯事。一度など、私が夜電気を付けた途端、手のひらサイズの蜘蛛と遭遇。ビックリしすぎて声も出ませんでした。とりあえずそんなデカイ蜘蛛を見なかったフリはできないので殺生をしてしまいましたが、次の日からストレスで便秘になりました。
コチラは2階の民泊部屋の天井部分。
土壁が剥き出しでこれはこれで風情はあるけれども、何が潜んでいるのか分からない日々の恐怖からは逃れようがない↓
アップにするとこんな感じ↓
超自然派の兄、山男・Mとその妻Tは多分この土壁には何の恐怖も感じないと思うのですが、私は4か月経った今でもなかなか馴染めません。とにかくこの土壁が目に入らないように過ごしています。でも民泊でこの部屋に泊まったフランス人カップルは「超サイコー!」と言ってくれました。
本当に人間というのは十人十色ですね。
臼杵市への移住を検討中の皆さん。特に自営業を計画中の皆さんは是非この旧市街の空き店舗、空き家物件を探索してみてください。武家屋敷や大正ロマン薫る洋館など面白い物件を発見できるかもしれません。そしてそれぞれの「私」ができる「町残し」に参加してみませんか?
臼杵へ下見にお越しの際は是非ケレシュにも遊びに来てくださいね。
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